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しばらく顔見せなくてごめんねーー!ほら久々、お土産の手乗り地蔵だよー!
なんて言いながらいつものように病室のドアを開いて、いつものように規則破りのおやつを頬張るあの子がいて。 笑顔で迎えてくれるはずだったんだ。 「―――ー」 空のベッドと畳まれた白い布団。 風を吸い込む開け放たれた窓と揺れるカーテン。 キュと、足が扉口で止まった。無人の部屋はひんやりとして、来るはずの無い来訪者を拒絶する。 笑みを作ろうと不自然に引きつった口角が元の位置に戻らないのを感じながら、無理矢理に結んで笑みを消した。 作るものじゃないや。脈絡のない哲学を頭に浮かべる傍らで、フル回転もさせる。 腕に抱えたお土産をよけ、確認した問診表の最後の日付から、今日までを数えてみた。 間抜けな包装紙を笑ってくれる人はもういなくて、左手の力を抜くと同時にカラカラと鳴る音がやけに遠く聞こえた。 「…そ、か」 うん、元気になったなら、良かった。 『楽しいこととか、嬉しいこととか、全部ぜんぶ変わらずにはおれんけどさー』 『次の楽しいこととか嬉しいことを待ってればいいんだよ』 『そしたらなづっちゃん、ずっとニコニコしてるっしょー』 だから、寂しいなんて言っちゃだめだよ、お医者さん。 いつだったか、あの子はそうやって言って、にへって笑ったんだ。 いつのまにか閉まっていたドアを後ろ手のまま引く。 自分の影と病棟の外の木陰が、夕日で細く映し出される。 脳がその場に置き去りにされる感覚。 どんっと背中にぶつかったのは、いくつかの衝撃と体温だった。 「おかえりなづっちゃーん!!」 「「おかえりおかあさーんっ!!」」 茶色い猫ッ毛頭が二つと、結ばれた癖のある黒髪。 首だけ振り返って背中越しに見えたのは、大好きな子たちで、 ぐわしっ、と掴んだのは手乗り地蔵。 碧の街の夕方に響いたのはカラスと、あほの4人の笑い声。 ******* 「はい、ごめんなさいは?」 とりま、双子と桜華ちゃんの3人を隣の病室―本来の桜華ちゃんの病室―のベッドの上に正座させること30分。 「ご、めんなさい・・・」 「騙されたのそっちじゃん」 「しゅぅっ・・・!」 ごちむ。 「ーーーっっっ」 「大丈夫、愛がこもってるから」 なんてにっこり笑顔なら任せて。伊達に社会人やってないわ。 こいつら、空き部屋と桜華ちゃんの部屋のナンバープレート入れ替えやがったのよほほほ・・・!! 「ごめんてなづっちゃー・・・」 秘技、桜華の上目遣い。やられてたまるかこんちくしょう。 「知らない。しばらく問診藤堂先生に代わってもーらぉ」 それぐらいしないとね、気がすまないし。 ・・・寂しいとか思っちゃったのも悔しいし、おんなじ思いすればいいんだわ。 そしたらまた内緒でおやつ持ってきて会いに来てあげれるんだから。 ふん。 PR この記事にコメントする
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